肝(かん)が弱っている体質に「肝血虚(かんけっきょ)」があります。
素問に「肝は筋を主る」とあり、肝臓そのものへの血の貯えと、筋肉への貯えの両方が落ちてきている事を示します。
「肝血虚(かんけっきょ)」となると、血の貯えの不足から、いろいろな体のガタが出やすくなります。
例えば、肌の乾燥、目が疲れやすい、ドライアイ、筋肉が痛みやすい、こむら返り、月経周期の遅れなどが肝血虚の代表症状です。
食事では動物性のものが早く、血の材料となり、レバー、貝、赤身の魚などがあります。またこんぶ、ワカメなどにも増血作用があります。
ところが、これらを毎日の様に食事で摂っても、貯え込めにくい体質の人もいます。
そういう時、補血の力のある漢方がよく働きます。
補血作用のある生薬の基本は、当帰(とうき)、熟地黄(じゅくじおう)などです。
これらの生薬は温める作用があります。
もうひとつ代表に芍薬(しゃくやく)があるのですが、この生薬は寒性で、他の仲間とちょっと性格が異なります。
しかし、補血作用を持って「肝血虚(かんけっきょ)」を改善したい時によく使われます。
実は、肝血虚の体質の方は、血を貯め込むかわりにストレスを貯め込みやすいのです。
ストレスは前回述べたように体の中に滞ると熱を持ちます。
そこで、芍薬でもってストレスを除き、同時にそこに貯まった熱も冷ましているのです。
よってストレスから体調を崩した方には芍薬を主薬としたり、多めに使ったりします。
またストレスからくる肩こりや、腰痛、イライラなどに使う漢方処方には、ほぼすべて芍薬が入っています。
例えば、柴胡疎肝湯(さいこそかんとう)、大柴胡湯(だいさいことう)、加味逍遥散(かみしょうようさん)など、すべて芍薬がしっかり使ってあります。
同時にストレスから滞った陽気の動きをよくするように、柴胡(さいこ)と芍薬(しゃくやく)の組み合わせになっています。
自分でストレス解消法を持っている方は大丈夫なのですが、ついつい考えすぎてしまったり、貯め込んでしまう人には、これら芍薬の入った処方はストレスを柔らげ、イライラを冷ましてくれる強い味方になります。
これらの事から、芍薬の働きは古典に「柔肝(じゅうかん)」と書いてあります。
もうひとつ芍薬は筋の痛みも柔げてくれます。
もともと「肝血虚(かんけっきょ)」体質の方で、肩や腰、ひざ、腕など、ひねると痛むのが続いている方用に疎経活血湯(そけいかっけつとう)という、すごくいい処方があります。
20種類位の生薬で作られるこの処方ですが、やっぱり主薬は芍薬で、一番たくさん配合されています。
50代 男性
毎年、春になると頭痛がひどい。痛みだけではなく、激しい時は目がチカチカして吐き気までする。
本人が言うには「急に体が重だるくなって、気持ち悪いような感じれ頭痛が始まる。
風邪の引き始めみたいな、なんかおかしい感じになって、どんどん悪く進んでいく感じ…」これを聞い時、もしかしたら風邪をひいて頭痛がしているんじゃないかと考えた。
ふつう皆さんは冬に風邪をひきやすいと思われるでしょう。
ところが実は、春も冬に次いで風邪ひきの季節なのです。
当然、症状が違います。
邪(ウイルス)の性質が違うためとも言えます。
漢方では、風邪ひきは大きく3つに分けてあります。
ひとつは「風(ふう)」の邪。
ひとつは「寒(かん)」の邪。
ひとつは「湿(うん)」の邪。
さらにここから細かく分かれてもいます。
冬の寒い時にひくのが「寒(かん)」の邪(ウイルス)によるもの。
対して春の風邪は「風(ふう)」の邪によるものが多く、これは冬と症状が異なります。
そこで、この方には頭痛が始まりだしたら、またおかしいかなと思ったらすぐに飲むように「風(ふう)」の邪に効くかぜ薬の漢方を調合し、9回分処方した。
後日、伺うと、1回のんだだけで、頭痛は起こらず、またその後も出ていないとの事。
「風(ふう)」の邪に入られやすかったのが、調合した漢方で落ち着いた様子。
またおかしいと思ったら、すぐのむように指導。
「いつも(一袋)持ち歩いてお守りにしています」と嬉しい報告を頂いた。
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